アクセシビリティについて
アクセシビリティとは、近づきやすさ、利用しやすさ、などの意味を持つ英単語です。その意味が転じてITの分野においては、身体の状態/能力を問わず、製品/サービスが使える度合いを示す単語として使用されます。
アクセシビリティプロジェクトでは、JIS X 8341-5の素案作成をしています。ハードウェア、ソフトウェア及びネットワーク技術を組み合わせた情報通信機器及びサービスを利用する人々の数が、情報通信機器及びサービスの種類が増えるにつれて増加しています。この規格は、主に高齢者、障害のある人々及び一時的な障害のある人々が、事務機器を利用する際の情報アクセシビリティを向上させるための指針としています。
一つの感覚/運動器官に頼らない、多様な操作モードの提供はアクセシビリティの向上に貢献します。アクセシビリティPJが携わるJIS規格が対象とする障害を下記表の通り、まとめました。
なお、各障害は一時的なけが及び疾病による障害状態も含むこととしています。高齢者については、次以降の対象の“障害”には至らない軽い症例又はその軽い症例の複合として考え、各障害に配慮することによって対応することができます。障害の分類は、JIS Z 8071の分類を参照し、事務機器の使用を前提に、米国リハビリテーション法508条規格と欧州EN 301 549とに調和した分類としております。
障害の分類表
- 全盲
- 視覚を全く使えない障害である。触覚及び聴覚が操作及び動作の頼りであるために,事前学習が前提となる。マウスは使えないが,キーボード及び読み上げソフトでPCを利用可能である。スマートフォンなどを利用するユーザーもいる。
- 弱視
- 視覚を使えるが制限のある障害である。眼鏡などを用いても,日常生活に問題ない視力まで矯正できない。矯正可能である場合は,視力が低くても弱視(ロービジョン)とはいわない。オペレーティングシステム(OS)のアクセシビリティ機能を利用してPCを利用する場合及び拡大率の高いルーペを持ち歩くユーザーもいる。また,読書時には,拡大読書器のような福祉機器を利用する。一般の機器利用においては,3 cmぐらいまで,目を近づけて操作をするユーザーもいる。
- 色覚障害
- 色の見え方が正常色覚と異なる障害である。色が全く区別できない色覚障害と,区別しにくい色がある色覚障害とがある。代表的な例として,赤と緑との色を区別することが難しいが,他にも区別しにくい色の組合せがある。色の組合せをハイコントラストにすると,より良く区別することが可能になるが,色味が変わって,色を頼りに操作する弱視者に認識しにくくなる場合もある。また,加齢でも,白と黄との,及び黒と紺との色を区別しにくくなる。
- ろう(聾)
- 聴覚が完全に使えない状態にある障害。自分自身が話す言葉を聞くことができないため,発話障害の要因となる場合がある。日常生活においては,周囲の音が聞こえないことで,身の危険の回避が遅れる場合もある。大きな音でも鳴っているのかどうかが分からない場合がある。そのため,掃除機のコンセントが抜けていても気づかない場合がある。
- 難聴
- 補聴器又は人工内耳の利用によって,ある程度聴覚を使用できる状態にある障害。しかし,多くの場合,障害のない人ほどはっきりとは聞こえず,特に子音は,不明瞭である。難聴の人は,会話の流れ又は状況から言葉を認識する。そのため,会話の対象が突然変更された場合,会話についてこられない場合がある。また,聴力は,老化によって低下し,高齢者は,特に高い音を認識することが難しくなる
- 発話障害
- 入力発話ができない又は部分的に話すことができる障害である。先天性聴力障害から引き起こされる発話障害又はがん(癌)手術での喉頭切除による発話障害を含む様々なケースがある。全く話すことができない場合,筆談がコミュニケーションの主な手段となる。
- 上肢の力と動作とが制限される障害
- 低筋力,低い制御能力,義手,片手,同時の動作が困難,又は不随意運動(震え)のため,手及び指の力,細かい動作,又は両手を必要とする操作を実行することが困難な障害である。力が必要な操作だけでなく,力が弱くても指の細かい動きが必要なタッチパネル又はマウスの操作も困難である。知覚の喪失によって温熱痛覚をもたない場合がある。老化も筋力及び制御能力を低下させる。
- 届く範囲が制限される障害
- アクセスできる範囲が制限される障害である。これは,つえ(杖)又は車いす を使う人,上肢障害及び低身長の人を含む。車いすを使う人の場合,上肢障害がない人は手動車いす,及び上肢障害がある人は電動車いすを使う。いずれも座った状態から手を伸ばさなければならないため,上方,下方及び奥行き方向に届く範囲が制限される。奥行き方向の深いエリアに手を伸ばすと転倒する危険性もある。つえ(杖)を使う人の場合は,しゃがみ込み動作が難しいことがあるため,下方の届く範囲が制限される。低身長の人の場合,上方及び奥行き方向の届く範囲が制限される。
- 光過敏性発作
- 光の連続点滅によって起こす可能性がある発作[けいれん(痙攣),てんかんなど]。これは,光又は映像のちらつきによって,脳内が強く刺激され,脳全体が興奮状態になることで発症する。日本において,TVアニメのフラッシュで多数の子供の体調不良が発症した事件は有名である。
- 認知障害,言語障害又は学習障害
- 認知,記憶,抽象化又は記述における障害である。これらの障害には,先天的なものとして知的障害,精神障害又は発達障害,及び後天的なものとして高次脳機能障害又は加齢による脳機能低下を含む。これらの障害に対しては,ユーザーの記憶・理解・操作の実行を補塡する機能が役立つ。発達障害の中には,知的には問題がないものの,読書きの能力に困難をもつディスレクシアという症状を含む。また,高次脳機能障害の一種の失語症は,思考の言語化が難しく,発話障害と混同されることが多い。この規格では,職業訓練又は就業の場で,認識認知障害,言語障害又は学習障害 の当事者が事務機器を利用する場合を対象とする。